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盛岡地方裁判所 昭和23年(行)104号 判決

原告 細田徳治

被告 岩手県知事

一、主  文

被告が昭和二十三年七月二十九日附岩手県指令農地第二、九三三号をもつてなした、「原告の昭和二十二年六月十七日附農地調整法施行規則附則第四条第一項の規定による申請は許可しない」旨の処分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、別紙目録記載の各土地は元訴外高屋敷福蔵の所有であつたのを、昭和十七年三月二十六日原告がその余の畑三筆及び宅地一筆と共に売買代金七百円をもつて買い受け、即日その旨所有権移転登記を経由した原告所有の土地である。その際原告及び右訴外人との間に、右同日以後三年以内に右訴外人が右各土地につき買戻の申込をした場合は原告はこれを六百五十円で売り戻すこと、但し右期間経過後は右訴外人において右買戻の権利を喪失することの約定をなし、且つ右各土地を右訴外人に賃貸期間の定めなく、賃料は、年金百五円とし毎年十二月末日までに支払うことの約定で賃貸することの契約を締結したのである。しかるに右訴外人は約定の期間内に右各土地に関する買戻の申込をしなかつたので右同人は右各土地を買い戻す権利を喪失したのである。

しかして右高屋敷福蔵は、爾来今日に至るまで一度も前記約定の賃料を支払わないばかりか、昭和二十一年四月頃別紙目録記載の字天狗三十二番畑一反二畝二歩地上生立の原告所有の五十年生松四本、三十年生杉四十本及び栗一本を擅に伐採製材して自己のために使用するが如き、小作人として許し難い信義に反する所為に出でたので、昭和二十二年六月十七日原告は、金田一村農地委員会を経由して被告知事に対し別紙目録記載の各土地に関する前記賃貸借契約の解約許可申請書を提出したところ、昭和二十三年三月二十三日村農地委員会は原告の右申請は理由があり解約許可を至当と認める趣旨の意見を附して被告知事に進達したのであるが、被告知事は同年七月二十九日附をもつて、旧農地調整法第九条第一項に規定する、賃貸人原告の自作を相当とする場合に該当するものとは認められないとして、右賃貸借契約の解約はこれを許可しない旨の処分をなし、同年九月六日その旨原告に通知した。

しかしながら、前記高屋敷福蔵の前記のような小作料の滞納及び立木の無断伐採の所為は、正しく同法第九条第一項にいわゆる信義に反した行為であり、右法条に則り前記賃貸借契約を解約し得べきこと勿論である。

仮りにそうでないとしても、原告が前記解約許可申請をした昭和二十二年六月十七日当時における原告の耕作面積は、田一反八畝二十五歩、畑九反七畝であり、現在におけるそれは田は右に同じであるが畑は更に少く九反三畝二十一歩であるに対し、前記高屋敷福蔵の右同日及び現在における耕作面積は、田二反七畝、畑一町八畝二十三歩で原告より多いのである。もつとも原告の家族は六人であるに比し右高屋敷福蔵の戸籍上同居の家族は十二人であるけれども、右同人の家族の大半は九戸郡大野村第二帯島地区に入植している長男武文の許にあり、右高屋敷福蔵と生活を共にしている家族は極く少数であるから、家族数の点においても原告の方が多いのである。このように耕作面積及び家族数の点から両者の生活条件を比較するとき、賃借人高屋敷福蔵は寧ろ賃貸人たる原告に優位の状況にあるのであつて、別紙目録記載の各土地を原告に返還しても、別段相当なる生活の維持に困難を来す虞れはないのであるから、右各土地は原告において自作するのを相当とする場合に該当するものといわなければならない。しからばいずれにしても原告の前記賃貸借契約の解約許可申請は相当であり、認容せらるべきであるにかかわらず、これを斥けた被告知事の前記処分は明らかに違法であり、取り消さるべきである。よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、被告の主張に対し、昭和二十二年七、八月頃前記高屋敷福蔵が訴外長谷川由太郎を通じて原告に金二千七百円を提供したことは認めるが右金二千七百円は、原告が前記売買契約において別紙目録記載の各土地と共に右同人から買い受けた金田一村大字金田一字大沼二十七番宅地二百十三坪に対する買戻代金であつて別紙目録記載の各土地に対する買戻代金ではなく、しかも原告はその受領を拒否したのである。右各土地が原告の所有に帰属したものであることは右高屋敷福蔵においてもこれを認めていたのであり、現に村農地委員会に対し右各土地につき買収の請求をしているのであると附陳した(立証省略)。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁して、原告主張事実中、その主張日時頃訴外高屋敷福蔵が原告主張の立木を伐採製材したこと、原告及び右高屋敷福蔵の各耕作面積及び家族数が原告主張のとおりであること、原告がその主張日時金田一村農地委員会を経由して被告知事に対し原告主張の解約許可申請書を提出したこと、原告主張日時村農地委員会が原告主張のような意見を附して被告知事に進達したこと、原告主張日時被告知事が原告の右解約許可申請を不相当とし許可しない旨の処分をなし、その旨原告に通知したこと、以上の事実はこれを認めるが原告主張の売買賃貸借事実は否認する。

昭和十七年三月二十六日前記高屋敷福蔵が原告から金六百五十円を、弁済期右同日より三年後、利息月一分五厘とし右元金弁済のとき同時に支払うことの約で借り受け、その際右債務を担保するため、別紙目録記載の各土地外畑三筆及び宅地一筆を原告名義に所有権移転登記をし、右債務の元利金を弁済したときはその所有名義を右高屋敷福蔵に回復すべきことの約で譲渡担保設定契約をなし、同日買戻期間三年、買戻代金六百五十円とする買戻特約附売買を原因とする原告名義の所有権移転登記を経由したのである。すなわち原告との間の契約は譲渡担保契約であり、右各土地に対する原告名義の所有権移転登記は、飽くまで前記消費貸借上の債務の担保を目的としたものであつて、確定的且つ完全にこれが所有権を移転したのではない。当時の時価からすれば、六百五十円の債務に対する担保として前記各土地を提供することは、担保価値の点で著しく過剰であつたのであり、そのような土地を六百五十円の低廉な売買代金をもつて売買することは到底考えられないところであり、また右高屋敷福蔵としても売切で原告に右各土地の所有権を移転する意思は毛頭なかつたのである。従つて右所有権の移転を前提とした賃借するような契約をなさなかつたのは因より当然であり、爾来右高屋敷福蔵において右各土地を自己の所有農地又は宅地として従来どおり耕作又は使用して現在に至つたのである。昭和二十年三月二十六日前記約定の三年の弁済期が到来したが、金策の都合がつかなかつたので右高屋敷福蔵は原告から弁済期限の猶予を受けその後前記借受元金及びこれに対する利息を弁済しようとしていたところ、昭和二十二年三月村農地委員会が別紙目録記載の各土地等につき原告を相手方として第一期買収計画を樹立するに及び、右各土地の所有者が原告かそれとも右高屋敷福蔵かにつき問題となり、結局右各土地は前記のような事情で原告名義になつているのであるが真実は右高屋敷福蔵の所有であることが判明したので、同年八月村農地委員会は右買収計画を変更し、右各土地を買収計画から除外したのである。しかしてその際、村農地委員会が原告及び高屋敷福蔵の間に入つて、右高屋敷福蔵から原告に物価騰貴の事情をも勘案して相当の金員を弁済して問題を解決する様斡旋した結果、当事者双方ともこれを了承したので、昭和二十三年八月右高屋敷福蔵は金策の上訴外長谷川由太郎を通じて、前記借受元金及びこれに対する利息に相当する金員として金二千七百円を原告に弁済提供したところ、原告は言を左右にしてこれが受領を拒否したのである。

以上の次第で別紙目録記載の各土地は依然高屋敷福蔵の所有であり原告の所有に帰していないから、右同人においてこれを耕作するについて原告から賃借するいわれのないことは勿論、前記字天狗三十二番畑一反二畝二歩地上生立の自己所有の立木を伐採し得べきところ、右同人は昭和二十一年三月十六日の火災により家屋を焼失したのでこれが復旧用材として右立木を伐採製材したのであつて、そのこと自体何等不都合はないのである。しからば原告の、別紙目録記載の各土地の所有権が原告に帰属し、原告及び右高屋敷福蔵間に賃貸借契約の存在することを前提とする本訴請求の失当であること明らかであると述べた(立証省略)。

三、理  由

昭和二十二年六月十七日原告が金田一村農地委員会を経由して被告知事に対し別紙目録記載の各土地に関する賃貸借契約の解約許可申請書を提出したところ、昭和二十三年三月二十三日村農地委員会が解約許可を相当と認める旨の意見を附して被告知事に進達したこと、被告知事が同年七月二十九日附をもつて右解約を許可しない旨の処分をなし、同年九月六日その旨原告に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

原告は、その主張のように別紙目録記載の各土地が原告の所有に帰属したものであることを前提として、これに関する賃貸借契約の解約許可申請に対する被告知事の処分の違法を主張するに対し、被告は、またその主張のように右各土地の所有権が訴外高屋敷福蔵に存するものとして右賃貸借契約の存在を否認するので、まず右各土地の所有権の帰属について審究するに、証人高屋敷福蔵の証言及び原告本人(第一、二回)尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)を弁論の全趣旨に徴すれば、昭和十七年三月六日前記高屋敷福蔵が原告から金六百五十円を、弁済期右同日より三年後の昭和二十年三月二十六日、利息月一分五厘の約定で借り受け、その際右債務を担保するため、右高屋敷福蔵所有の別紙目録記載の各土地外畑三筆及び宅地一筆につき原告名義に所有権移転登記をなし、右債務の元利金を約定の弁済期に弁済したときは右各土地の所有名義を右高屋敷福蔵に移転すること、但し右弁済期限を徒過した場合は、右各土地の所有権が確定的に原告に帰属し、高屋敷福蔵において最早これを回復し得ないこと、それまでは従前どおり右同人において右各土地を無償使用できることとの譲渡担保設定契約を締結し、即日右契約の趣旨に基き右各土地につき買戻期間三年、買戻代金六百五十円とする買戻約款附売買を原因とする原告名義の所有権移転登記を経由したことを認めることができる。右認定に反する原告本人の供述部分はにわかに措信し難い。

もつとも甲第五、六号証各売渡証書の記載によれば、昭和十七年三月二十六日売主高屋敷福蔵及び買主原告間に、別紙目録記載の各土地を含む前記各土地を売買代金合計千一円で単純に売買することの契約を締結したもののようであるけれども、通常不動産売買における所有権移転登記手続をなすに当り、登録税を可及的に軽減する目的から、登記原因を証する売買契約書等に記載する売買代金額は、実際の売買代金額より控目にするのが一般の事例であることは公知の事実であるから、本件において、若し原告主張のように前記各土地につき担保を目的としない普通の売買が真実なされたものとすれば少くとも右甲第五、六号証記載の売買代金の合計額千一円と同額若しくはそれより多額の売買代金をもつて売買せられた筈であるのに、原告は却つてそれより少額の金七百円をもつて右各土地を買い受けた旨主張しているのである。しかしこれは、前記のとおり、登記原因を証する書面に記載するところの金額が、実際の売買価格より少くこそすれ、多くはしないという一般の事例に反するところであり、何等か特段の事由のない限りそのような売買契約書等を作成することは到底考え得られないところであるから、本件において前記のような売渡証書を作成したこと自体、却つて原告及び高屋敷福蔵間に成立した契約が担保の趣旨の契約ではなかつたかを窺わしめるに十分である。従つて右甲第五、六号証をもつてしても前示認定を覆すことができない。その他原告提出援用にかかる全立証をもつてするも、右認定を覆し、前同日原告が担保の目的でない普通の売買により別紙目録記載の各土地等の所有権を確定的に取得した事実を認めることができない。

果してそうだとすれば、昭和十七年三月二十六日原告及び高屋敷福蔵間に、別紙目録記載の各土地等につき締結せられた前示譲渡担保設定契約は、特段の事由の認められない限りいわゆる外部的関係においてのみ担保物の所有権が移転し、内部関係においては依然担保提供者に所有権の留保されているいわゆる弱き譲渡担保といわなければならない。従つて右各土地の所有権は、いわゆる外部関係において移転したにとどまり、契約当事者間の内部関係においては依然右高屋敷福蔵に右所有権が留保されていたのであり、右同人において原告の右各土地に対する担保権を害することがないようにして使用収益すべき債権的拘束を受けるが引き続き使用収益し得たものといわなければならない。

ところで前示債務を弁済して右担保物件の所有名義を右高屋敷福蔵に回復し得るのは前示約定の弁済期間内に限り、これを経過した場合は原告において確定的にこれが所有権を取得する旨約したことは前示認定のとおりであるところ、右高屋敷福蔵において前示弁済期の昭和二十年三月二十六日までの間に前示債務の弁済提供をしなかつたことは被告の自認するところであるから、前示約定の弁済期の経過により、原告は、右約定の趣旨に従つて別紙目録記載の各土地等の所有権を内外部関係共に確定的に取得したものであり、右契約当事者間には特段の合意のあつたことの認められない限り右弁済期における担保物件の価格より元利金を控除して残額のあるときは、原告が高屋敷福蔵にこれを返還すべく、また、右担保物件の価格が元利金に足らないときは、高屋敷福蔵が原告にその差額を弁済すべき清算手続を残すにすぎないものといわなければならない。

この点につき被告は、昭和二十年二月頃右高屋敷福蔵が原告から前示弁済期限の猶予を受けた旨主張するけれども、これを認めるに足る何等の証拠がない。従つて右高屋敷福蔵が昭和二十三年七、八月頃訴外長谷川由太郎を通じて、被告主張の趣旨で金二千七百円を原告に弁済提供したとしても、原告においてこれが受領を拒否したことは当事者間に争いがないから、結局弁済としての効力を生ぜず、右各土地の所有権の帰属につき何等の影響がない。

しからば右高屋敷福蔵は昭和二十年三月二十七日以後においても、所有権を取得した原告が清算手続の上旧担保物件の引渡を請求して来るまでは、同人において右物件を使用収益していることができ、直ちにこれを不法占有者ということができないとしても、この場合の使用収益関係は、譲渡担保の性質上担保権者であつた原告の容認している間に限り利用できるだけの関係であり、すなわち原告が担保物件の価格より元利金を控除した残額の請求とともに引渡の請求をする場合は勿論のこと、右物件の価格と元利金との差額を提供して引渡の請求をなす場合、これを拒否し得べき理由がないのであり、単なる賃貸借契約に基く賃借人の使用収益関係と異なるもののあること明らかであり、従つて旧農地調整法第九条により保護せらるべき関係ではないものといわなければならない。

しかるに原告は、右高屋敷福蔵から右各土地の交付を受ける方法として、被告知事に対し本件賃貸借契約解約許可申請をしたのであるが、元々原告及び高屋敷福蔵間には賃貸借契約が存在しなかつたこと前示認定のとおりである以上、原告の右解約許可申請は本来旧農地調整法第九条及び同法施行規則附則第四条に規定する場合に該当しないのであり、従つて被告知事としては、右許可申請を不適法として却下すべきであつたにかかわらず、前示のような事実関係の認定を誤り、原告主張のような賃貸借契約の存在を前提として実体につき審査の上、同法第九条第一項の賃貸人原告において別紙目録記載の各土地を自作するのを相当とする場合に該当するものとは認められないとの理由で主文第一項掲記のような本件不許可処分をしたのは明らかに違法であり、しかして右不許可処分の現存する以上、原告及び高屋敷福蔵間に別紙目録記載の各土地に関し賃貸借契約が存在するものとし、右高屋敷福蔵が賃借権に基いて右各土地を引き続き耕作する権限を有することを許容する結果となり不当であるから、右不許可処分は取り消さるべきである。

しからば原告の本訴請求は、その主張する理由では不当であるが、本件不許可処分の取消を求める点で結局において理由があるから、その余の点の判断を待つまでもなく正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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